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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その4 2006.5.15

●男の純潔~?●

ラシーヌの『フェードル』でも、イポリットにただただ同情してしまいますが、この第二作の前半では嫌なやつだったヒッポリュトスも、後半は実に可哀想です。
私がおもしろいと思ったのが、「男の純潔」です。
女嫌いって人は、時々いると思いますが、男が純潔を守り、純潔の美青年として信仰されるというのはが、何ともおもしろい気がしてしまいます。
こんな話もあるそうです。

トロイゼーンの名所旧跡とそれに関する歴史や伝承については、パウサニアース (紀元前二世紀) の『ギリシャ案内記』第二巻三〇節以下に詳しい説明があるが、そのなかにヒッポリュトス伝説に関連するいくつかの興味深い記述が見出される。この町にはヒッポリュトスを祀る社があって、終身職の神官がこれを守り、年々に犠牲を供える。また土地の娘たちは、嫁ぐ日を前に己の髪の毛を切って、社前に捧げる風習がある。

こういう事実を無視して、イポリットに恋人の存在を与えてしまふラシーヌには、をいちょっと待てよ、思ってしまいます。根本を変えたらいかんだろ、と。

読み比べてみる事をオススメしますっっ !



ヒッポリュトス
三島由紀夫のフランス文学講座
フランス文学/男と女と
ラシーヌ、二つの顔
ラシーヌの悲劇

  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その3 2006.5.13

●パイドラーとヒッポリュトス (ラシーヌとの比較) ●つづき

解説によれば、このエウリーピデースの『ヒッポリュトス』は、改作であり、第一作でのパイドラーは、野性的で能動的な激しい気質の女性であり、王妃パイドラーは、たまたまアテーナイに立寄った継子のヒッポリュトスを見染め、夫テーセウスが不在であることを幸い、あらゆる手段と口説を尽して彼に言い寄るのである。もちろんヒッポリュトスがこれを容れるはずはなく、誇りを傷つけられたパイドラーは帰国したテーセウスに、ヒッポリュトスが自分を犯そうとしたと讒訴する。という話だったそうであり、これがアテナの市民に不評を買った事もあって、改作したらしいです。
ラシーヌの『フェードル』は、第一作に近いんじゃないか、と思います。まあ、このくらいハッキリした女なら、私は好感持てちゃうんですが…中途半端で偽善者ぽいんだよなあ…ラシーヌは。

おもしろいのは、パイドラーの性格の変容によって、乳母の重要性も変化している所です。
ラシーヌは、ヒッポリュトスを夫に讒訴するような賎むべき行為は、パイドラーのごとき高貴な魂には相応しくないと感じて、『フェードル』においては、その罪を乳母に負わせた訳ですが、なんだか差別的な気がしてしまいます。どーもラシーヌは好きになれん所が…

そして、解説にはむしろ観客や読者の多くは、内気な王妃をこのような復讐に駆りたてた責任の一部を、ヒッポリュトスの冷酷ともいうべき過度の潔癖さに帰したい欲望を禁じがたいのではあるまいか。とありまして、実に同感であります。
前回引用した、パイドラーの恐ろしいセリフも、だから同情的に見られるのです。
あのセリフの前提には、ヒッポリュトスの、思いやりのかけらもない、人の気持ちがわからぬ屈辱的な発言がある訳なので、ラシーヌの場合と比べて、ずっとこちらの方が納得できるのです。
以下、解説より引用。

色恋に染まぬ清純な王子が、淫乱な継母から邪な恋をしかけられ、実の父親の呪いをうけて悲惨な最期を遂げる、という第一作の物語は、ヒッポリュトスを典型的な悲劇の主人公に仕立てている。ところが改作においては、パイドラーの性格が一変したために、劇の前半、すなわちパイドラーの自害にいたるまでの部分では、アクションは明らかにパイドラーを中心として展開してゆくのであり、われわれの関心と同情もまたヒッポリュトスよりも、パイドラーにより多く向けられることを否定できない。

その4、最終回へとつづきます。

  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その2 2006.5.11

●パイドラーとヒッポリュトス (ラシーヌとの比較) ●

ラシーヌの『フェードル』と違い、この作品はパイドラー (フェードル) が実にかわいく描かれています。
次のセリフなど。

婆や、やっぱりまた顔を隠して頂戴
さっき口走った言葉が恥かしいのですもの。
ねえ婆や、隠して頂戴、涙が出てきて仕方がないし、
顔は恥かしさにほてるばかり。
正気にかえるって、辛いことね。
でも気の違っているのもいけないし、
一番良いのは、気がつかないうちに死んでしまうことだわ。


そして、アプロディテーの復讐の犠牲になる訳でして、この作品では一番悲劇的に描かれていると思えます。『フェードル』のように、自分から告っちゃったりもしない訳でして。
しかし、ラシーヌの『アンドロマック』におけるエルミオーヌを思い出させるようなセリフもありました。

でも私は自分も死ぬ代り、もうひとりの人にもきっとひどい目に遭わせてあげます。
私をみじめな目にあわせておいて、自分だけ大きな顔をしてはいられぬことを思い知らせてやります。
この私の苦しみを少しでも、自分で味わってみたら、
あの高慢の鼻も折れましょう。


一方、『フェードル』では実に可哀想で、いちばん悲劇的だったイポリット (ヒッポリュトス) が、こちらでは結構嫌なヤツに描かれています。ちと長いですが…次のセリフなど。

ゼウス様、どうしてあなたは人間のために、女という偽りにみちた禍いを、
 この世にお遣わしなさいました。
人間の種族を増すおつもりであったのであれば、
女によらずに、なさるべきでありました。
人間どもはあなたのお社で、
金銀銅の銭を払い、
子種をそれぞれの値で買い求める
ということも出来ましたろうに。
そうなれば、女どものおらぬ館で
のんびりと暮すこともできたわけ。
女が大きな禍いであるということは、次のことでもわかります。
生んで育てた父親が、持参金まで添えて
娘を嫁にやるのは、つまりは厄介物からのがれるため。
さて憐れなのは、この厄介な代物を背負いこんだ男、
いそいそとしてこの大変な人形を、
着飾らせるに余念なく、
ついに家財をすりへらす。
よい姻戚に恵まれれば、その代りには悪妻に悩まされ、
また良妻を得た代りには、性悪の舅を背負いこみ、二つよいことはないと諦める。
所詮こうした運命を免れぬのだ。
愚かで役にも立たぬ代りに、害にもならぬ妻を抱えた男が、まだ一番ましかもしれぬ。
とにかく私は賢しい女は嫌いだ。女の分際で賢ぶるような女を
妻には持ちたくないものだ。
とかく色恋の過ちも、賢しい女に多いもので、
甲斐性のない女は、頭の働きの遅いお蔭で、
そういう間違いを犯さずにすむというもの。
---後略---


長くなったので、次回につづきます。
  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その1 2006.5.9

まず、ラシーヌの『フェードル』と全然違う ! という事に驚かされましたが、これについては、また後ほど。

岩波文庫、松平千秋訳で読みましたが、この人の訳がいいのでしょうか?ホメロスも、これも、大変読みやすく、文章が美しく、楽しく読了しました。

●女神アプロディテーの事●

『フェードル』では、そう言えば神の存在というものが、存在感が薄かったように思うのですが、こちらでは、ヒッポリュトスがアルテミスを崇拝信仰し、アプロディテー(アフロディテ)を無視する所から悲劇が始まります。以下引用。(キュプロス→アフロディテの別称)

老僕  それならば、なぜ貴い女神にお詣りなさいませぬ。
ヒッポリュトス   私がどの女神に……。勿体ないことを。滅多な口をきくでないぞ。
老僕  (門の前のアプロディーテーの像を指して) それ、御門の前に立っておられる、キュプロス様でございますよ。
ヒッポリュトス   (了解した態、その像に向ってそのまま軽く頭をさげる) おれは色恋に染まぬ人間だから、あの神様には遠くから御挨拶しておこう。


あと「暗闇で霊験あらたかな神様などは、私は大嫌いなのだ。」とか「神様でも人間でも、好き不好きのあるのはいたし方あるまい。」

なんて事言ってるから、アプロディテーに呪われるという話になってます。
ちなみに、アプロディテーが随分と悪者扱いされていますが、ギリシャ神話の神は、皆身勝手で嫉妬深く、彼女だけが責められるのは理不尽極まりないと思います。
まあ、トロイヤ戦争の元兇ともなっている訳でもありますが…。(^^;)
 +++これについては、そのまた前提がありまして、ちょっと拝借しますが、まろさんの日記『金の林檎の行方』を御参照くださいませ。+++
愛と豊饒の女神という所も、純潔を重んじる人々には疎まれる存在であるみたいです。
だから逆に、一方では特別に好かれている神だとも言えると思います。
「アフロディテスチャイルド」なんてバンドもいるしね。

ちなみに「ヴィーナス」とは、アフロディテの英語読みなわけですが、美しい女性の尊称のようになっている所が、いかにこの女神が好かれているかを物語っているのではないでしょうか。
乙女座がアフロディテの星座だという事が、個人的には嬉しいです。

次のアルテミスのセリフは、またもや罪のない人間が、身勝手な神によって殺される事を予告しているのであり、これだから人間世界においても、永久に戦争なんてもんがなくならないわけだよ、と思わされるものでありました。

もう悔むことは止めよ。たとえお前が暗い地下に降るとも、
お前が神を敬い、心正しくあることを憎んで、
おのれの怒りをほしいままにお前の身に霽したキュプリスの所行は、
必ず報復を受けねばならぬ、
こんどは私の手によって、
キュプリスの最も愛しむ人間を、
射ち誤つことなきこの弓で射止めて、怨みを霽してやりましょう。


次回につづきます~

  

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ウェルギリウス『アエネーイス』 2006.5.7

アエネーイス図書館で、このブ厚~~いハードカバー本を借りてきまして、自分の場合、通勤電車&職場が主な読書タイムになるので、ひじょーーにこのでかさは辛いものでして、早く読んでしまいたいと焦るんだけど、どーにも読みにくかったのです。
んな訳で、結構いいかげんに読んでしまった部分も多々あり、あまりいい読書は出来なかったのでありますが…。
話としては、アエネーアスがローマを建国すると言う、実に興味深いもののはずなのですよ。
映画『トロイ』では、パリスがアエネーアスに剣を渡し、未来を託す場面がありました。

ホメロスの描き方は、ギリシャ側の見方だったように記憶しているのですが、戦争での苦しみ、悲しみを、どちら側にも立って表現されている所が、この物語の良さだと思います。
淡々と事実が語られていくのではなく、実に内面に踏み込んだ描き方をしていると感じました。子を失う親の悲しみに打たれます。

ギリシャ神話を読むと、人間と言うのは、神々が勝手に動かしている駒みたいなものだと思うのですが、以下のセリフは、その事を物語っていると思います。

  言っておこう、テュンダレウスの娘、ラコーニア女の憎むべき顔ではない、
  罪深いパリスでもない、神々だ、神々の無情なのだ、
  この富める国を覆し、トロイアをその頂から薙ぎ倒したのは。


ラシーヌの『アンドロマック』を読むと、オレストがまるっきし最初からエルミオーヌに片思いのように読めたのですが…以下のアンドロマケのセリフを読むと、どーも最初は恋人同士、或は夫婦だったんじゃないっすか~?
どーもラシーヌには納得のいかない事が多い気がします。後で別のものを読むと、そういう事なら話は分かる ! って事がちらほらありました。

  「--前略--わたしたちは、祖国で焼き払われてから遠く海を越えて運ばれ、
  アキレスの子の驕りと思い上がった若さに耐えて、
  奴隷の身で子供を生みました。しかし、そののち、彼が
  レーダの血を引くヘルミオネとのラケダエモンでの婚礼を求めたとき、
  召使のわたしは召使のヘレヌスに下げ渡されました。
  ところが、彼に奪われた花嫁への激しい恋情に燃え、
  また、大罪ゆえの狂気に駆り立てられて、オレステスが
  無警戒の彼を待ち伏せし、その父親の祭壇で殺したのです。


アエネーアスの父アンキーセスの言葉、ひじょーに難解なのですが(^^;)、前半部分が美しく思ったので引用。

  「そもそも、天と地、潤いある野原、
  月光の輪、ティータンの星、これらを
  養うのは内なる霊気だ。精神が体内に浸透したとき、
  巨躯全体が動き出す。精神が巨大な外形と融合するからだ。
  じつにここから生き物が生まれる、人間も、獣も、鳥も、
  海が滑らかな水面の下に育む奇怪なものたちも。--後略--」


ラストに、実に実に美しい詩的な表現だと思った1文を。

  ポダリーリウスの両眼に過酷な安らぎと鋼の眠りが
  のしかかる。瞳の光が永遠の夜に閉ざされた。


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ハードロックギタリストで作詞作曲家(まだアマチュアだけどな)吉乃黄櫻の読書ブログ。
60~70年代のロック、サイレント~60年代あたりの映画、フランス・ロシア・ドイツなどの古典文学が好きな懐古趣味人。
西武ライオンズファン。
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