加賀乙彦『宣告』その1 2005.11.30
死刑制度、<死>そのもの、犯罪心理学、拘禁ノイローゼ、等等。
死刑制度の問題については、自分では答えを出せないです。
法律的マスコミ的には、加害者の人権が守られ、被害者の人権が守られてないと感じるし、被害者側から見れば、死刑は当然だという意見もわかるし…そして、ちょっと気になったのは、下巻巻末の中野孝次の解説の、断固として死刑制度に反対する意見。被害者側の気持ちをおろそかにしすぎな気がしてしまいました。
小説の方は、少し被害者側の事がおろそかになっているようにも見えますが、なにげに行なわれた人1人の殺人が、どれだけ多くの人の人生を狂わせるのかが、ちゃんと描かれているのです。
そして、加害者側が人非人であるという、圧倒的な世間の見方に対しての、加害者側に立っての描写は、大変意味がある事だと思います。
死刑囚ひとりひとりが、実におもしろく人間性豊かに描かれていて、宣告を待つ彼等の心情には胸が痛くなりますが、彼等が何をしてそうなったのかを忘れてはならないと思います。
この小説、話の順番と言うか、運び方が、もう、とんでもなくうまいんですよ。
玉置恵津子への手紙の後の「宣告」なんて・・・そして淡々と語られるリアルさ。
このあたりは家で読むべきだと断言しちゃいましょう ! 私は職場で読んでたんですが…
これはフィクションではありますが、死刑囚と実際に接してきた作者の実体験が元になっている、ほとんど知られていなかった刑務所の実体についても描かれている、ドストエフスキーの『死の家の記録』同様に、実に実に貴重な小説だと思います。
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