ラシーヌ『アンドロマック』その2 2006.3.30
トロイア戦争において、ギリシャ方の英雄アキレウスに倒されたトロイアの武将ヘクトール、その後に残された妻アンドロマックは、トロイア落城に際して、他ならぬ夫の的アキレウスの息子ピリュスの女奴隷にされる。しかし、そのピリュスは、亡きヘクトールの妻アンドロマックに胸の炎を燃やし、自分に靡かぬなら、ヘクトールと忘れ形見アスチアナクスを殺害すると脅迫している。死者への愛に忠実であろうとしてピリュスの愛を拒否するアンドロマックを一方の極に、そしてピリュスと、ピリュスを愛する婚約者エルミオーヌを挟んで、もう一方の極には、そのエルミオーヌに宿命の恋を捧げるオレストを配した「片思いの連鎖」。悲劇『アンドロマック』が、トロイア戦争の終盤戦、エンドゲームとして成立するのは、まさにこの「死者に繋がれた情念の連鎖」によってである。
って訳でして、もうどいつもこいつもっつー話なんです。
好きなら相手の幸せとか気持ちとか、ちっとは考えるものだと思うのですが、この人達と来たら、とにかく自分の思いを強引に遂げようとするばかり。
ピリュスもそうとうヒドイですが、アンドロマックも、これがまた、ちと虫が良すぎないっすか~?と言いたくなるセリフが。以下引用。
いいえ、敵方の悲惨にもお目をかけられ、
不運にあえぐ者どもを救い、息子を母の手に返し、
その子のためには、あまたの国の冷酷な要求をも打ち破り、
しかも命の代償に、この身の愛をお求めになることもなく、
わたくしの心がどうであれ、必要とあらば、その子に隠れ家を賜わる。
これこそ陛下、アキレウスの御子にふさわしいお心遣い。
次のオレストのセリフは、サド小説を思い起こさせられました。
そしてこれは、『フェードル』のイポリットにこそふさわしいセリフだと思います。
俺には分からぬ、いつでも何か不正な力が、
罪ある者を平穏無事にしておきながら、罪なき者を追いまわす。
p.89の「思い起こすのだ、セフィーズよ、」で始まるセリフは、実に詩的。
ダンテの神曲と同じく、アナフォラの型式ってやつですね。
そーいや「あれはあれでいいのかね」の人消えたですね。
中でも、いちばんとんでもねーと思ったのがエルミオーヌですが、それについてはまた次回。
フェードル アンドロマック
恋の女神ヴェニュスの呪いを受け、義理の息子イポリットに禁断の恋を抱くアテネの女王が、自らの恋を悪と知りながら破滅してゆく「フェードル」。トロイア戦争の後日譚で、片思いの連鎖が情念の地獄を生む「アンドロマック」。恋の情念を抗いがたい宿命の力として描くラシーヌの悲劇が、名訳を得てここに甦る。
![]() | フェードル アンドロマック (岩波文庫) (1993/02/25) ジャン ラシーヌ 商品詳細を見る |
クリックよろぴくー。

