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ヘミングウェイ短編集 (二) 2006.5.18

いきなり (二) な訳ですが・・・ヘミングウェイの短編を読もうと思っていて、たまたま図書館に (二) だけあったとゆー訳です。
新潮文庫、大久保康雄訳。
「五万ドル」「十人のインディアン」「贈りもののカナリヤ」「アルプスの牧歌」「追走レース」「身を横たえて」「清潔な明るい店」「世の光」「海の変化」「スイス礼讃」「死者の博物誌」「ワイオミングの葡萄酒」「父と子」「フランシス・マコーマーの短い幸福な生涯」

短編、いいですねー。なかなかピリッとしてると思います。
特に、最後に入っている「フランシス・マコーマーの短い幸福な生涯」なんて、ほんっっとに見事だと思いました。おもしろかった~。構成から何から何まで見事。
ウィルソン、マコーマー、マコーマー夫人、3人それぞれの心理状況が大変おもしろいです。
クールなウィルソンが、泣いてるマコーマー夫人に言うセリフがおもろいのなんのって。

あとは「ワイオミングの葡萄酒」なんて、好きだなー。
「アルプスの牧歌」も、何とも言えない可笑しみがあります。
ヘミングウェイは、ストレートな表現、繰り返しの多用によって、気持ち、痛みがダイレクトに伝わる所が魅力かと思うのですが、こういう笑える短編も良いですねー。
そして、「五万ドル」や「清潔な明るい店」等に見られる、孤独感がまた良いです。
「身を横たえて」を読んで、ヘミングウェイもきっと不眠症だったんだろうな、と思いました。ちと親近感が…

あとがきに、次のようにあります。

彼は、その作品を通じてなにか一つの抽象的な理想を語ろうとする種類の作家ではない。人生について、世界について、何を考えるかと問われるならば、おそらくヘミングウェイは、『清潔な明るい店』の初老の給仕とおなじように「無 (ナダ) 」と答えるだろう。彼の作品の人物たちが、みずからのために一つの掟を選ぶように、彼もまたみずからのために一つのスタイルを選んだのだ。

私は不眠症に共感してしまうのですが、その「清潔な明るい店」の給仕の言葉が印象的でした。

何をおれは恐れているんだろう? いや、恐れているんでも、びくついているんでもない。すっかりおなじみになっている虚無ってやつなんだ。すべてが無なんだ。人間も無なんだ。それだけのことさ。必要なのは光だけだ。それと、ある種の清潔さと秩序だ。虚無のなかに住みながら、まったくそれに気づかないものもいるが、おれは知っている----

次の会話が実に良いです。

「なんになさいますか?」バーテンダーがたずねた。
「無 (ナダ) 」だ」
「また一人気ちがいだ」バーテンダーはそう言って、そっぽを向いた。
「小さいコップでな」給仕は言った。


   

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その4 2006.5.15

●男の純潔~?●

ラシーヌの『フェードル』でも、イポリットにただただ同情してしまいますが、この第二作の前半では嫌なやつだったヒッポリュトスも、後半は実に可哀想です。
私がおもしろいと思ったのが、「男の純潔」です。
女嫌いって人は、時々いると思いますが、男が純潔を守り、純潔の美青年として信仰されるというのはが、何ともおもしろい気がしてしまいます。
こんな話もあるそうです。

トロイゼーンの名所旧跡とそれに関する歴史や伝承については、パウサニアース (紀元前二世紀) の『ギリシャ案内記』第二巻三〇節以下に詳しい説明があるが、そのなかにヒッポリュトス伝説に関連するいくつかの興味深い記述が見出される。この町にはヒッポリュトスを祀る社があって、終身職の神官がこれを守り、年々に犠牲を供える。また土地の娘たちは、嫁ぐ日を前に己の髪の毛を切って、社前に捧げる風習がある。

こういう事実を無視して、イポリットに恋人の存在を与えてしまふラシーヌには、をいちょっと待てよ、思ってしまいます。根本を変えたらいかんだろ、と。

読み比べてみる事をオススメしますっっ !



ヒッポリュトス
三島由紀夫のフランス文学講座
フランス文学/男と女と
ラシーヌ、二つの顔
ラシーヌの悲劇

  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その3 2006.5.13

●パイドラーとヒッポリュトス (ラシーヌとの比較) ●つづき

解説によれば、このエウリーピデースの『ヒッポリュトス』は、改作であり、第一作でのパイドラーは、野性的で能動的な激しい気質の女性であり、王妃パイドラーは、たまたまアテーナイに立寄った継子のヒッポリュトスを見染め、夫テーセウスが不在であることを幸い、あらゆる手段と口説を尽して彼に言い寄るのである。もちろんヒッポリュトスがこれを容れるはずはなく、誇りを傷つけられたパイドラーは帰国したテーセウスに、ヒッポリュトスが自分を犯そうとしたと讒訴する。という話だったそうであり、これがアテナの市民に不評を買った事もあって、改作したらしいです。
ラシーヌの『フェードル』は、第一作に近いんじゃないか、と思います。まあ、このくらいハッキリした女なら、私は好感持てちゃうんですが…中途半端で偽善者ぽいんだよなあ…ラシーヌは。

おもしろいのは、パイドラーの性格の変容によって、乳母の重要性も変化している所です。
ラシーヌは、ヒッポリュトスを夫に讒訴するような賎むべき行為は、パイドラーのごとき高貴な魂には相応しくないと感じて、『フェードル』においては、その罪を乳母に負わせた訳ですが、なんだか差別的な気がしてしまいます。どーもラシーヌは好きになれん所が…

そして、解説にはむしろ観客や読者の多くは、内気な王妃をこのような復讐に駆りたてた責任の一部を、ヒッポリュトスの冷酷ともいうべき過度の潔癖さに帰したい欲望を禁じがたいのではあるまいか。とありまして、実に同感であります。
前回引用した、パイドラーの恐ろしいセリフも、だから同情的に見られるのです。
あのセリフの前提には、ヒッポリュトスの、思いやりのかけらもない、人の気持ちがわからぬ屈辱的な発言がある訳なので、ラシーヌの場合と比べて、ずっとこちらの方が納得できるのです。
以下、解説より引用。

色恋に染まぬ清純な王子が、淫乱な継母から邪な恋をしかけられ、実の父親の呪いをうけて悲惨な最期を遂げる、という第一作の物語は、ヒッポリュトスを典型的な悲劇の主人公に仕立てている。ところが改作においては、パイドラーの性格が一変したために、劇の前半、すなわちパイドラーの自害にいたるまでの部分では、アクションは明らかにパイドラーを中心として展開してゆくのであり、われわれの関心と同情もまたヒッポリュトスよりも、パイドラーにより多く向けられることを否定できない。

その4、最終回へとつづきます。

  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その2 2006.5.11

●パイドラーとヒッポリュトス (ラシーヌとの比較) ●

ラシーヌの『フェードル』と違い、この作品はパイドラー (フェードル) が実にかわいく描かれています。
次のセリフなど。

婆や、やっぱりまた顔を隠して頂戴
さっき口走った言葉が恥かしいのですもの。
ねえ婆や、隠して頂戴、涙が出てきて仕方がないし、
顔は恥かしさにほてるばかり。
正気にかえるって、辛いことね。
でも気の違っているのもいけないし、
一番良いのは、気がつかないうちに死んでしまうことだわ。


そして、アプロディテーの復讐の犠牲になる訳でして、この作品では一番悲劇的に描かれていると思えます。『フェードル』のように、自分から告っちゃったりもしない訳でして。
しかし、ラシーヌの『アンドロマック』におけるエルミオーヌを思い出させるようなセリフもありました。

でも私は自分も死ぬ代り、もうひとりの人にもきっとひどい目に遭わせてあげます。
私をみじめな目にあわせておいて、自分だけ大きな顔をしてはいられぬことを思い知らせてやります。
この私の苦しみを少しでも、自分で味わってみたら、
あの高慢の鼻も折れましょう。


一方、『フェードル』では実に可哀想で、いちばん悲劇的だったイポリット (ヒッポリュトス) が、こちらでは結構嫌なヤツに描かれています。ちと長いですが…次のセリフなど。

ゼウス様、どうしてあなたは人間のために、女という偽りにみちた禍いを、
 この世にお遣わしなさいました。
人間の種族を増すおつもりであったのであれば、
女によらずに、なさるべきでありました。
人間どもはあなたのお社で、
金銀銅の銭を払い、
子種をそれぞれの値で買い求める
ということも出来ましたろうに。
そうなれば、女どものおらぬ館で
のんびりと暮すこともできたわけ。
女が大きな禍いであるということは、次のことでもわかります。
生んで育てた父親が、持参金まで添えて
娘を嫁にやるのは、つまりは厄介物からのがれるため。
さて憐れなのは、この厄介な代物を背負いこんだ男、
いそいそとしてこの大変な人形を、
着飾らせるに余念なく、
ついに家財をすりへらす。
よい姻戚に恵まれれば、その代りには悪妻に悩まされ、
また良妻を得た代りには、性悪の舅を背負いこみ、二つよいことはないと諦める。
所詮こうした運命を免れぬのだ。
愚かで役にも立たぬ代りに、害にもならぬ妻を抱えた男が、まだ一番ましかもしれぬ。
とにかく私は賢しい女は嫌いだ。女の分際で賢ぶるような女を
妻には持ちたくないものだ。
とかく色恋の過ちも、賢しい女に多いもので、
甲斐性のない女は、頭の働きの遅いお蔭で、
そういう間違いを犯さずにすむというもの。
---後略---


長くなったので、次回につづきます。
  

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エウリーピデース『ヒッポリュトス』その1 2006.5.9

まず、ラシーヌの『フェードル』と全然違う ! という事に驚かされましたが、これについては、また後ほど。

岩波文庫、松平千秋訳で読みましたが、この人の訳がいいのでしょうか?ホメロスも、これも、大変読みやすく、文章が美しく、楽しく読了しました。

●女神アプロディテーの事●

『フェードル』では、そう言えば神の存在というものが、存在感が薄かったように思うのですが、こちらでは、ヒッポリュトスがアルテミスを崇拝信仰し、アプロディテー(アフロディテ)を無視する所から悲劇が始まります。以下引用。(キュプロス→アフロディテの別称)

老僕  それならば、なぜ貴い女神にお詣りなさいませぬ。
ヒッポリュトス   私がどの女神に……。勿体ないことを。滅多な口をきくでないぞ。
老僕  (門の前のアプロディーテーの像を指して) それ、御門の前に立っておられる、キュプロス様でございますよ。
ヒッポリュトス   (了解した態、その像に向ってそのまま軽く頭をさげる) おれは色恋に染まぬ人間だから、あの神様には遠くから御挨拶しておこう。


あと「暗闇で霊験あらたかな神様などは、私は大嫌いなのだ。」とか「神様でも人間でも、好き不好きのあるのはいたし方あるまい。」

なんて事言ってるから、アプロディテーに呪われるという話になってます。
ちなみに、アプロディテーが随分と悪者扱いされていますが、ギリシャ神話の神は、皆身勝手で嫉妬深く、彼女だけが責められるのは理不尽極まりないと思います。
まあ、トロイヤ戦争の元兇ともなっている訳でもありますが…。(^^;)
 +++これについては、そのまた前提がありまして、ちょっと拝借しますが、まろさんの日記『金の林檎の行方』を御参照くださいませ。+++
愛と豊饒の女神という所も、純潔を重んじる人々には疎まれる存在であるみたいです。
だから逆に、一方では特別に好かれている神だとも言えると思います。
「アフロディテスチャイルド」なんてバンドもいるしね。

ちなみに「ヴィーナス」とは、アフロディテの英語読みなわけですが、美しい女性の尊称のようになっている所が、いかにこの女神が好かれているかを物語っているのではないでしょうか。
乙女座がアフロディテの星座だという事が、個人的には嬉しいです。

次のアルテミスのセリフは、またもや罪のない人間が、身勝手な神によって殺される事を予告しているのであり、これだから人間世界においても、永久に戦争なんてもんがなくならないわけだよ、と思わされるものでありました。

もう悔むことは止めよ。たとえお前が暗い地下に降るとも、
お前が神を敬い、心正しくあることを憎んで、
おのれの怒りをほしいままにお前の身に霽したキュプリスの所行は、
必ず報復を受けねばならぬ、
こんどは私の手によって、
キュプリスの最も愛しむ人間を、
射ち誤つことなきこの弓で射止めて、怨みを霽してやりましょう。


次回につづきます~

  

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ウェルギリウス『アエネーイス』 2006.5.7

アエネーイス図書館で、このブ厚~~いハードカバー本を借りてきまして、自分の場合、通勤電車&職場が主な読書タイムになるので、ひじょーーにこのでかさは辛いものでして、早く読んでしまいたいと焦るんだけど、どーにも読みにくかったのです。
んな訳で、結構いいかげんに読んでしまった部分も多々あり、あまりいい読書は出来なかったのでありますが…。
話としては、アエネーアスがローマを建国すると言う、実に興味深いもののはずなのですよ。
映画『トロイ』では、パリスがアエネーアスに剣を渡し、未来を託す場面がありました。

ホメロスの描き方は、ギリシャ側の見方だったように記憶しているのですが、戦争での苦しみ、悲しみを、どちら側にも立って表現されている所が、この物語の良さだと思います。
淡々と事実が語られていくのではなく、実に内面に踏み込んだ描き方をしていると感じました。子を失う親の悲しみに打たれます。

ギリシャ神話を読むと、人間と言うのは、神々が勝手に動かしている駒みたいなものだと思うのですが、以下のセリフは、その事を物語っていると思います。

  言っておこう、テュンダレウスの娘、ラコーニア女の憎むべき顔ではない、
  罪深いパリスでもない、神々だ、神々の無情なのだ、
  この富める国を覆し、トロイアをその頂から薙ぎ倒したのは。


ラシーヌの『アンドロマック』を読むと、オレストがまるっきし最初からエルミオーヌに片思いのように読めたのですが…以下のアンドロマケのセリフを読むと、どーも最初は恋人同士、或は夫婦だったんじゃないっすか~?
どーもラシーヌには納得のいかない事が多い気がします。後で別のものを読むと、そういう事なら話は分かる ! って事がちらほらありました。

  「--前略--わたしたちは、祖国で焼き払われてから遠く海を越えて運ばれ、
  アキレスの子の驕りと思い上がった若さに耐えて、
  奴隷の身で子供を生みました。しかし、そののち、彼が
  レーダの血を引くヘルミオネとのラケダエモンでの婚礼を求めたとき、
  召使のわたしは召使のヘレヌスに下げ渡されました。
  ところが、彼に奪われた花嫁への激しい恋情に燃え、
  また、大罪ゆえの狂気に駆り立てられて、オレステスが
  無警戒の彼を待ち伏せし、その父親の祭壇で殺したのです。


アエネーアスの父アンキーセスの言葉、ひじょーに難解なのですが(^^;)、前半部分が美しく思ったので引用。

  「そもそも、天と地、潤いある野原、
  月光の輪、ティータンの星、これらを
  養うのは内なる霊気だ。精神が体内に浸透したとき、
  巨躯全体が動き出す。精神が巨大な外形と融合するからだ。
  じつにここから生き物が生まれる、人間も、獣も、鳥も、
  海が滑らかな水面の下に育む奇怪なものたちも。--後略--」


ラストに、実に実に美しい詩的な表現だと思った1文を。

  ポダリーリウスの両眼に過酷な安らぎと鋼の眠りが
  のしかかる。瞳の光が永遠の夜に閉ざされた。


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カポーティ『冷血』その4 2006.5.5

凶悪殺人に精神鑑定というものは、常についてまわるものですが、これが実にやっかいだと常々思います。
実際ニュース等を見ていて、こんなことするやつが正常な精神なわけはない ! と思いつつ、精神鑑定で異常と出れば無罪になっちゃうじゃん…それはねーよ、と矛盾した気持ちにさせられるんですよね。以下引用。

この四人のそれぞれの場合において、さらに進んだ精神医学上の調査が要求された。というのも、何人かが---弁護士か、親戚の者か、友人かが---以前に行なわれた精神医学的説明に満足せず、「この男のように精神の正常な人間が、どうして有罪となるような狂人じみた行為を犯すことができるか?」という要旨の質問を試みたからである。

ムショ仲間の凶悪殺人犯アンドルーズが、最期の時にヒコックに渡したと言う、詩を書いた紙片、グレーの「田舎の墓地で書かれた挽歌」の第九節を引用して、終わりたいと思います。

  紋章の誇りも、権勢の華麗も、
  美のあたえる、富のあたえるすべても、
  おなじく免れられぬ時刻を待つ----
  栄光の道はただ墓場に通ずるのみ。


 

1家4人惨殺事件はなぜ起きたのか。緻密な取材で犯行のすべてを再現し、絞首台まで事件のすべてを描ききったノンフィクション・ノベルの最高傑作が新訳で蘇る。発刊40年、世界中の作家、ライターに影響を与えた冷酷な犯人の人間像描写を今一度味わうチャンスだ。(松)

カンザスの村で起きた一家四人惨殺事件。五年余を費やして綿密な取材を敢行し、絞首台まで犯人を追った本書は四十年を経た今なお、輝きを放ちつづける。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル。人間の魂の暗部を抉りつくし、後進の作家たちに強烈な影響を及ぼした暗黒の教典、待望の新訳成る!


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カポーティ『冷血』その3 2006.5.3

音楽とギターを愛し、殺す瞬間に咄嗟の思い遣りを見せる、殺人犯ペリー。
彼のした事は、とうてい許される事ではないのは承知ですが、何か心を動かされてしまうのです。どーも葛藤のようなものが残る小説でした。
殺された家族の人柄を描き、どんなに残酷な事件だったかを克明に描きつつ、この犯人への思い。これがこの小説の醍醐味と言えるのではないでしょうか。

そのペリーの精神分析が実におもしろく、全文引用したいぐらいなのですが、そこをぐっとこらえてさわりの部分だけ。

彼は他人にたいして猜疑心と不信感を抱き、他人は自分にたいして差別待遇をすると感じる傾向を持ち、また、他人は自分にたいして不公平であり、自分を理解していないと感じているのです。他人が自分にたいして行なう批判には過度に敏感であり、人からからかわれるのにはがんまができません。彼は他人が口にする事柄のうちに侮蔑とか侮辱とかいったものを鋭く感じとり、しばしば善意の言葉を曲解することもあります。彼は友情とか理解とかいったものを自分が大いに必要としていると感じてはいますが、他人に心を打ち明ける気になれず、いざ打ち明ける場合には、誤解されること、さらに裏切られることすら予想するのであります。他人の意図とか感情とかを評価するに当って、真実の姿を自分の心理的投影から分離する能力がきわめて乏しいのであります。

この後がおもしろいんですが(^^;)、2ページ入力すんのもあれなんで…とにかく読んでみていただきたいですっっ。
ペリーの最期の言葉には、心を揺さぶられました。
それは、刑事デューイー、また作者のカポーティーも同じ気持ちだったのかもしれません。以下引用。(処刑はディック→ペリーの順で行なわれました)

最初の処刑のときには、彼は心をかき乱されなかった。ヒコックにはあまり好意を持っていなかったからである----デューイーにとって、彼は「空虚な価値のない暗闇から這い出てきた三流詐欺師」のように思われた。だが、スミスは----彼こそ殺人者であったのだが----別の反応を起させた。というのも、ペリーは一種の特性を備えていたからである----傷つきながらさまよい歩く動物が持っているような霊気、それを刑事は無視することができなかった。

次回最終回につづきます。

 

1家4人惨殺事件はなぜ起きたのか。緻密な取材で犯行のすべてを再現し、絞首台まで事件のすべてを描ききったノンフィクション・ノベルの最高傑作が新訳で蘇る。発刊40年、世界中の作家、ライターに影響を与えた冷酷な犯人の人間像描写を今一度味わうチャンスだ。(松)

カンザスの村で起きた一家四人惨殺事件。五年余を費やして綿密な取材を敢行し、絞首台まで犯人を追った本書は四十年を経た今なお、輝きを放ちつづける。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル。人間の魂の暗部を抉りつくし、後進の作家たちに強烈な影響を及ぼした暗黒の教典、待望の新訳成る!


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Author:吉乃黄櫻
ハードロックギタリストで作詞作曲家(まだアマチュアだけどな)吉乃黄櫻の読書ブログ。
60~70年代のロック、サイレント~60年代あたりの映画、フランス・ロシア・ドイツなどの古典文学が好きな懐古趣味人。
西武ライオンズファン。
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