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『アドルフ』その3 2006.8.24

この小説は、ある人からある人への手紙で始まり、その返事で終る所が、洒落ています。
以下は、「返事」からの引用です。(手記を読んでの)

もしここに教訓が含まれているとすれば、それは男性に向けられたものです。この手記は、ひとがあんなにも誇りとしているあの才気なるものは、幸福を見いだすにも役だたねば幸福を与えるにも役だたぬことを証明しています。

この先も引用したい所なのですが、小説のラストでもあるので、ネタバレをさけておこうと思います。
この「アドルフ批判」(と私は受け取りました) は、実に実に実に納得のいくものであり、ほんとは全文引用して紹介したいぐらいです。
もうちょっとだけ引用。

かつて一時の悔恨で塞いでやった傷口をまたあけてしまうようなかりそめの憐憫など、私は親切と呼ぶことはできません。

それに私は、なんとか説明がつけばそれで言いわけがたつと思うような自惚れを憎みます。自分のした悪を語りながら自分自身のことばかり気にかけ、自分を描くことによって同情をかち得ると自負し、

・・・とこの辺にしておきます。危ない危ない。

そして、訳者・新庄嘉章によるあとがきが、実に鋭いと思いました。

この小説は、女性の恋愛心理を描写したものというよりは、むしろ、男性の複雑きわまりない利己主義を冷たく鋭く分析したものと見るべきであろう。

「あとがき」の後に出ている、堀江敏幸の「近似値としての恋」というタイトルの文章がまた、この小説の本質をうまく捉えていると思います。

アドルフという男のとらえどころのなさは、究極的に空っぽの心が空っぽのままでいることに耐えられないこらえ性のなさにあって、すでに述べたとおり、恋人は誰でもいいのである。---中略---
 誘惑しなければ自分が満足できず、断られればますますその欲望を募らせ、いったん成就するとたちまち飽きてしまって、今度は火のついた相手を重荷に感じる。いつわりの振り子が左右に振れることはあっても、中央で静止することはない。彼に待ち受けているのは、絶対的な不幸でしかないのである。


 



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『アドルフ』その2 2006.8.21

恋愛についてのこの言葉は正しいのかもしれませんが、「恋に落ちる」とよく言いますが、この言葉はいい得て妙。落ちてしまふのだから、自分ではコントロール不可能なのですよ。

恋愛こそはあらゆる感情の中で最も利己的なものであり、従って、傷つけられた場合には最も情容赦のないものになるというのに。

いやはや、確かに。傷つけられた場合には…の所。
次はT***男爵のセリフです。(←何故かこの***が多く出てきます。なんで名前をちゃんと決めないんだろ、と思ったのですが…)

激し易い女性が力や理屈の代りに使うあの苦しみの示威運動を、人々はどうかすると本当のものと信じたがるのです。心はつれに苦しみながら、自尊心はそれを悦ぶのです。そして、自分が引起した絶望に身を捧げているのだと思いこんでいる男も実は、自分自身の虚栄心の錯覚にわが身を犠牲にしているにすぎないのです。世間に棄てられた死んでみせると言わなかった者は一人もありますまい。そのくせ、みな結構生き永らえて、けろりとしているのですからね」

うあーーー。聞きたくねえ言葉じゃ。だって苦しみはホンモノだもん。・・・とエレノール側に付く。

ゲームで近付いただけの女性に、全てを投げ打って愛された事が第一の不幸であり、ずっとそれを断ち切れずにいた事が、アドルフの最大の不幸だと思います。そのチャンスは何度もあったと言うのに。
次はエレノールのセリフです。

「どうして希望を返して下すったの? すぐまた奪われてしまうというのに。」

エレノールのセリフをもう1つ。とても印象的だったので。

「なんて静かなんでしょう ! 」とエレノールは私に言った。「なんて自然は諦めきってるんでしょうね ! 人間の心も諦めることを学ぶべきじゃないかしら?」

 



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『アドルフ』その1 2006.8.18

映画『イザベル・アジャーニの惑い』の感想では、この「アドルフ」という男にイライラだったのですが、これの原作本、バンジャマン・コンスタンの『アドルフ』を読んでみたら、映画の時よりもずっとこの男に同情的になれました。
実に心理的に優れた小説で、おもしろかったです。

最初は、この男のゲームだった訳で、その前に恋愛を経験出来なかった事も、不幸の一因かと思います。以下引用。

 胸は恋を欲し、虚栄心は成功を要求していたときに、突然目の前に現れたエレノールを見て、この人ならばと思った。

エレノールを選んだアドルフは、心にもない事を手紙に書いたりと、彼女をモノにする事に手を尽くします。そんな中、自分でも「本当に愛している気」になったりするのですが、常にこんな風なのです。あくまでも、「そんな気がする」なのです。
そして、ゲームの標的にされたエレノールの方は、アドルフを心底愛してしまい、何もかも捨ててしまうと言う予想外の事が起きるのです。そして、アドルフも彼女を幸せに出来ないまま、自分自身をも台無しにしてしまいます。以下引用。

愛していて愛されないのは恐ろしい不幸である。だが、もはや愛していないときに情熱的に愛されるのは、更に大きな不幸である。

まさに、この小説はコレなのです。
アドルフの父親からの手紙は実に正しいです。

お前は青春の一番美しいときを無益に浪費しているのだ。そしてこの損失は終生取返しのつかないものだ

 



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『阿部定伝説』その3 2006.8.16

「編者あとがき」で、前回書いた『阿部定手記』について、こう書かれています。

 一九四八年の『阿部定手記』は、架空のインタビューをでっちあげた『お定色ざんげ』のウソを正す形で定本人が書き下ろしたものだが、これもまた一篇の創作と化している。吉蔵との精神的な愛を強調しようとして、かつて調書で述べた事実をも一部ねじまげて「美しすぎる」虚構のいかがわしさに落ち込んでしまっている。
「何と云う二人にとつて呪われた日でございましたでしよう……この日あの人の家にいかなかつたならば、あゝあの日さえ此世になかつたならば……」といった詠嘆調や、
「夜の星空を見上げて居る私の心は、まるでお月様のような心の晴々しさで御座いました」などのメルヘン趣味にぬりたくられ、読むほうが気恥ずかしくなってくるものだった。


なかなか手厳しいですが、そんな感じでした。(^^;)

阿部定ブームというのは、10数年おきに訪れているようです。
阿部定は、私の今のブームでありますが、そうすると、あと数年ぐらいに、どわっとブームが来るのでしょうか。
この本の「編者あとがき」の所に、発表年順に阿部定モノの創作が並べてあり、これは貴重だと思って、頑張って入力しました。

     <1946~50>
 '46 織田作之助「世相」→八雲書店『世相』 ('46年刊) 所収→以後、多数の作品集に収録
 '47 織田作之助「妖婦」→風雲社『妖婦』('47年刊) 所収
    木村一郎『昭和好色一代女 お定色ざんげ』石神書店刊
    冬木健『愛慾に泣きぬれる女--あべさだの辿った半生--』国際書房刊
    鱒橋正一『阿部定行状記』紅書房刊
    長田幹彦『戯曲 阿部お定』    
 '48 阿部定『阿部定手記--愛の半生--』新橋書房刊
 '50 村松梢風『娼婦昇天--阿部お定の一生--』比良書房刊

     <1965~76>
 '65 藤本義一「肉の砂漠」→昭文社出版部『老掏摸・平平平平 (ひらだいらへっぺい)』('72年刊)
 '67 宇能鴻一郎「聖淫婦」→講談社『逸楽』('68年刊) 所収
 '69 石井輝男「映画 <明治・大正・昭和> 猟奇女犯罪史」(阿部定本人もゲスト出演)
 '70 宇能鴻一郎「わが初恋の阿部お定」→徳間書店『切腹願望』('70年刊) 所収
 '71 戸川昌子「淫女の真実」→講談社『冷えた炎の如く』('71年刊) 所収
    関根弘『詩集 阿部定』土曜美術社刊
 '73 宇能鴻一郎「ことの前」→青樹社『合宿同棲』('73年刊) 所収
 '75 田中登「映画 実録阿部定」
 '76 大島渚「映画 愛のコリーダ」
    佐藤信『戯曲 阿部定の犬--喜劇昭和の世界1--』晶文社刊

     <1992~ >
 '92 森真佐子「鬼灯」→実業之日本社『妖恋花--幻想押花帖--』('94年刊) 所収
 '95 大下英治「阿部定」→徳間文庫『悪女伝』('97年刊) 所収
 '96 失楽園(上)渡辺淳一「失楽園~冬滝の章」→<講談社『失楽園・上』('97年刊) 所収
 '97 島村洋子「阿部定 一九四七年秋」小説新潮'97年11月号発表
 '98 大林宣彦「映画 SADA」

実録 阿部定

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『阿部定伝説』その2 2006.8.12

この本の解説を、瀬戸内寂聴さんが書いています。
阿部定事件の時には、徳島の女学校二年生だったとか。
坂口安吾との対談は、事件から11年経った、終戦後二年、昭和22年のことだそうです。
寂聴さんは、どうも安吾は対談の時にはまだこの調書を読んでいないようである。もし読んでいたら、もっと核心に触れた迫力のある対談になっていただろう。と書かれており、ああ、そっか。そうだよなあ、と思いました。
当然読んでいるものと思っていたので、すんごい疑問だったんですよ。それなら納得です。なんたら金太郎って弁護士、あれはどー考えても変だよねえ。
しかし、後に、その本にも予審調書を載せていながら、この安吾の意見を前面的に支持する人達は、すっっごく疑問です。

寂聴さんも、阿部定に興味があり、いつか書きたいと思っていたそうです。
しかし、

 今、また、第何次かの阿部定ブームが起って、様々な定に関する刊行物が出揃うという。
 そのはしりのようなこの書を読み、私は、もう、阿部定を書く必要がないように思った。


と書かれています。エーッ、寂聴さんの阿部定書、読みたいっすよ。

そして、ラストにこう書いています。

 もし生きていたら、九十二歳だという。現在は九十歳、百歳の女性も珍らしくなくなった。私はまだ阿部定はどこかでひそかに朗らかに生きているような気がしてならない。もしその生死がたしかめられれば、勿論私は駆けつけて、長い長い対談をさせてもらいたいものである。

今生きていたら、100歳を軽く越えていますが、可能性はありますね。
まあ、対談が実現する可能性は、あまりないですが、瀬戸内寂聴×阿部定対談、これ、すっっごく読んでみたいです。


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『阿部定伝説』その1 2006.8.11

1936年5月、愛人を絞殺しその下腹部を切りとった阿部定の事件は、さまざまな伝説に彩られて、いま新たなブームを呼んでいる。そのゆたかな文学性のゆえに評判となった予審調書をはじめ、阿部定自筆の置手紙など貴重な資料を集成。加えて、定をモデルにした創作の中から選りすぐりの短篇三本を併せ収めて、“阿部定伝説”の発展・深化の跡をたどる。

【目次】
1 予審調書―全文/2 証言・対談・その他資料/3 阿部定ロマネスク(世相(織田/作之助)/聖淫婦(宇能/鴻一郎)/鬼灯(森/真沙子))


これがまた、なかなかおもしろい本でありました。

これにも、予審調書、「畳屋のお定ちゃん」、坂口安吾対談等等出ていたので、この辺は読んでいるので飛ばしました。

私、びっくり仰天してしまったのですが、「週間東京」1956年5月19日号の「私は石田を殺さない」。当時51才の定が語った事です。
お定よ、それはないだろう、と。2つほど引用。

 世間では、わたしが石田を殺した、とおもっているでしょうね。そう疑われても、仕方がないフシがわたしの行動にありました。しかし、わたしにはあの人を殺したおぼえはないんです。警察でも、法廷でも、「お前は石田を殺したうえ、彼の下腹部をきりとったことに間違いないか」ときかれました。そのつど私は「はい、その通りでございます」ときっぱり申しあげたことがあったんですが、あのとき死ぬつもりだったからでした。

一週間も極端な生活をつづけると、どうなるかは、ご想像におまかせする以外ありません。十七日の昼ごろから、もう二人は、なにがなんだかわからなくなってしまいました。
 こうした普通でない、ふかしぎな気持のなかで、あの人は自分の首を、自分でしめていたのです。---中略--- それからあとのことは夢中だったのでおぼえておりません。


・・・って、あれだけ具体的に供述してたじゃあないっすかっっ。そして、次々と衣裳を変えて変装して逃げてたんですぜ?
「まさき」を出てからの事も、ハッキリとすごい記憶力で供述してたじゃあないっすかっっ。
お定、とち狂ったとしか思えません。

そして、「阿部定ロマネスク」と題し、定をモチーフにした小説が三篇載っています。
織田作之助の『世相』は、天婦羅屋のオヤジの話で (いちおネタバレしないでおきます)、これは良かったと思います。
その次の宇能鴻一郎の『聖淫婦』は、あの校長先生を主役としたような話なのですか、これはダメだなーと思いました。あまり現実的でないかと。
あの先生を主役にすること事態が、間違いではなかろうかと…。
森真佐子の『鬼灯 (ほおずき) 』が、いちばんおもしろかったです。老人になった定と、その隣で暮らす若い女性の話です。やはり、女性の方が、定の事をよくわかっているのではないか知らん…なーんて思っちゃいました。

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『どうぶつたちへのレクイエム』 2006.8.8

犬好きの同僚が貸してくれました。(天然ちゃんとは別の人)
彼女は「これは家でしか読めない」と言ってました。写真見ただけで、涙ぼろぼろだって。
保健所で殺されるのを待つ動物たちの写真がいっぱい載っています。
捕獲された犬は収容されて3日目に、飼い主に持ち込まれた犬や猫はその日のうちに殺処分されるそうです。
そして、その処分方法は「安楽死」などではなく、「炭酸ガスによる窒息死」なのだそうです。
アウシュビッツで殺された人達と同じように、何の悪い事をした訳でもないのに、苦しんで死んでいくそうです。

「この子の最期を看取るのがいやだから」と言って、保健所に老犬を持ち込む人もいます。長年一緒に暮らしたわんちゃんを、何故ガス室に送りこめるのでしょう???
産まれた子猫を4匹持ち込んだ主婦に、作者は話を聞いたそうです。

「その子たち、どうしたんですか?」
『うちの猫が産んだんだけど、飼えないから……』
「里親は探されたんですか?」
『あ~、探したけど、見つからなかったんですよ』
「この子たち、ここに置いて行ったら、ガス室で処分されますよ。安楽死じゃなく、苦しみながら死んでいくんですよ」
『う~ん、でも、しょうがないし……』
「この子たちの母猫に不妊手術を受けさせたらどうですか?」
『え~、そんなのかわいそうだし。それにお金もかかるでしょー。私、急いでいるから……』


何故安易に動物を飼うのですか?
まず、毎日きちんと面倒を見られる状況であること、それをする覚悟がある事が大事だし、病気をした時には治療費が結構かかります。保険がきかないので。
そして、寿命が尽きるまで、責任を持って面倒を見る覚悟がなければ、飼うべきではないと思います。

職場での話ですが、炎天下で犬を散歩させているバカをよく見かけるとか。
「自分で裸足で歩いてみろよ」と言ってました。全く同感。

この本の動物たちの目を、是非見ていただきたいと思います。
彼らは、自分の運命をわかっているとしか思えません。
良い飼い主に恵まれ、幸せな動物と、ガス室での死を待つ彼等と、見比べてみてください。

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『阿部定手記』その2 2006.8.5

あの予審調書の爽快さからは、掛け離れたような、言い訳がましさが気にはなりましたが、定は、刑務所で、かなり精神的に成長したのではないか、と思います。
不便で遊ぶ所もない田舎の生活を楽しむなんて、あの定からは考えられないじゃないっすか。
次の文など、とても好感が持てました。

 自分で作った胡瓜をもぎ取って来て、ポキンと音をさして割り、冷たい井戸水で洗い、まるかじりした時のおいしさと嬉しさは今でも忘れられません。一生懸命作ったのだと思うと尻ッポを切るのさえ惜しいような感じがいたしました。手を泥だらけにして肥タゴまで担いだ事もありました。清純な田舎の生活、本当に家庭婦人になり切っていたその頃の私は吉蔵に済まぬ済まぬと思いつつ、その静かな生活に今後の生き甲斐を見出しておりました。

ち×ぽ削ぎとった人が、キュウリの尻ッポも切るのが惜しいって ! (あ、すみましぇん)
定は、出所後に、それまで全く知らなかった普通の生活をし、初めて幸せを見出したのかもしれませんね。
入所中のお仕事も、大変頑張って一生懸命やられたそうです。それも、楽しんで袋貼り等をやっていたみたいです。

ところで、あの渡辺淳一の『失楽園』、大流行りしていた時、私は全く興味を持たなかったのですが、阿部定の話だというのを聞いて、それなら読んでみようかという気になっていたのですが、この『阿部定手記』の解説によると、(*小説『失楽園』のネタバレあり。↓↓↓)


ストーリーは中年の不倫カップルが愛の頂点で青酸カリを飲んで心中していく、という現代の悲恋物語だが、この中で阿部定事件が重要ナモチーフとして登場する。予審調書を主人公が、読み聞かせて二人でお定の純愛とその行動に深く共感して、死を決意する動機ともなっており、いわば現代版の阿部定物語といってよいものである。

という事だそうで。なんだあ、とゆー感じです。(^^;)

失楽園(上) 失楽園(下)

手記とはあまり関係ありませんが、この本に出ている、「【批判】社会的見地から----杉山平助」の中で、実に共感した文章がありましたので、これをご紹介して終りにします。

人間は、自分と共通するところのないものに対しては、全然の無関心を示すより外はなく、それに対して嫌悪の念すらいだくことを得ないものである。


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『阿部定手記』その1 2006.8.4

「愛する男の身も心も自分のものにしたいのは、世の女の方も私も同じ」―世間を賑わせた事件から十二年を経て、マスコミに作られたエログロのイメージを払拭しようと阿部定自身が心境を綴った『手記』をはじめ、予審訊問調書、坂口安吾対談、事件当時の記事を全収録。時を越え多くの人の心を揺さぶった女性の一生を浮き彫りにする決定版資料集。

【目次】
事件発生から逮捕まで―新聞報道に見る昭和十一年五月/誌上緊急特集―『婦人公論』昭和十一年七月号より/『艶恨録』―予審訊問調書/判決全文―昭和十一年十二月二十一日/出所そして戦後―新聞報道に見る昭和十六年・二十二年/二度目のブームの中で/『阿部定手記―愛の半生』


阿部定と幼馴染みの久保久美さんの「畳屋のお定ちゃん」、予審調書、判決全文、例の坂口安吾対談と「阿部定さんの印象」等の後、最後に阿部定本人の手記が載っています。
定の人生というのは、下手なドラマより、よほどおもしろく、幼少の頃の性格から、キャラが立っていますので、私は是非とも、吉蔵との流連の日々だけでなく、定の一生というものを映画に撮ってほしいと思っていたのですが、大林宣彦監督の『SADA』は、その定の一生を描いているみたいです。観てみたい~



その原作本西沢裕子『SADA』です。




「畳屋のお定ちゃん」から引用します。

 大きな男の子から、いじめられたり、なぐられたりしても、泣きもせず、逃げもせず、涙をいっぱい溜めた目で、くやしそうに、いつまでも相手をにらみつけているような強いところがあるかと思うと、何でもないことでも、ちょっと気に入らなかったりすると、キンキンひびく疳高い声で、いつまででも泣いていて、お父さんが来ようがお母さんが来ようが、泣きやむことじゃございません。いくらだましてもすかしても手のつけようがないのです。かといって、黙って構わずに放っておこうもんなら、きれいな外行きの着物のまんまで、泥ンこの道ばたへ寝転んでしまって、足をバタバタやるという始末でした。

そして、子供の時から人使いのあらい子だったとか。
やっぱスカーレットぽいっすよね…。

そんな阿部定の手記ですが、「学問もなく文才とてもない私が、おこまがしくも」とか、「拙い私の筆ながら」等と謙遜しておりますが、なかなかどうして。予審調書のドラマ性の凄さから、想像は出来ましたが、文章も上手いと思います。
ちと、お涙頂戴の演歌調ではありますが。
短歌もつくったりしていて、(私は短歌の事はわかりませんが) 綺麗な文章だと思いました。

   愛すてふ言の葉ゆえに
       散り逝きし
    想ひはいとし
        我が亡き人へ


   濃霧消え菊一枝に秋日より

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【本】風と共に去りぬ その8 2006.8.2

スカーレットのどこに惹かれるかと聞かれたら、大方の人が「強さ」と答えるのではないでしょうか。
彼女はつまらないプライドなど捨てて、がむしゃらに生きていきます。
以下引用。

 スカーレットは、彼女自身もまた非情に変化したことを知っていた。さもなければ、この前アトランタを去っていらいやってきたようなことは、できなかったはずだ。さもなければ、いま彼女が絶望的にやろうと思うことなどを思い立つはずはなかった。しかし、彼らの頑固と彼女のそれとは異なっていた。しかし、どこが異なっているのか、現在の彼女にはわからなかった。おそらく彼女はどんなことでも敢然とやってのけるのに、彼らは、それをやるくらいなら死を選ぶほどやりたくないことが、たくさんある点だろう。おそらく、それは、彼らが、すでに希望がないのに、なお人生にたいしてほほえみかけ、うやうやしく頭をさげて通り抜けようとする点だろう。それがスカーレットにはできなかった。
*太字は私。

それで彼女は嫌われる訳ですが、なんと言う酷な選択肢でしょう。
以下の引用は、私も若い頃には、よく思っていた事です。
人の事ばかりに関心がある人って、よくいるんですよね。

「なぜ、マミーは、あんなに騒ぎたてるのかしら? なぜ人々は、あたしのことというと、まるでホロホロ鳥が寄りあつまったみたいに、やかましくいいたてるのかしら? だれと結婚しようが、なんべん結婚しようが、それはあたし自身の問題じゃありませんか。あたしは、いつも、自分だけのことしか考えないわ。、ほかの人たちも、自分自身のことだけ考えればいいじゃありませんか」

壮大な歴史小説でもあり、奴隷解放という問題を、別の面から描いている興味深い小説でもあります。
奴隷解放は良い事で、リンカーンは英雄だとの捉え方をしている、例えばドラマの「ルーツ」等を私は思い出したのですが、別の面から見てみれば、またいろいろと考えさせられます。
奴隷解放問題については、是非5巻に出ている解説の504ページを御覧くださいませ。

解説によれば、マーガレット・ミッチェルは、この作品を書くにあたって、『戦争と平和』の影響を最も強くうけたと言っているそうです。
これも前から読もうと思っていた作品です。これを機会に読んでみようかと思っています。
(図書館で2巻まで借りたですよん)

戦争と平和(1)改版
戦争と平和(2)改版
戦争と平和(3)改版
戦争と平和(4)改版

それにしても、この長編、よくぞここまで素晴しい映画にしたものです。
小説を先に読んでないので、何とも言えませんが、私には、主役から脇役まで、皆イメージ通りに思えます。
壮大なタラという土地、厳しい中にも活き活きとしていて、そんな中にもユーモアもたっぷりな雰囲気を、ほんっっとによく描いていますよね。小説を読みながら感心しまくりでした。

    

 

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【本】風と共に去りぬ その7 2006.8.1

◆スカーレット その3◆

次々と襲ってくる悲しみに、今は泣いている暇はないのだ、「明日かんがえよう」と、無理矢理悲しみを押しやる彼女は、泣き出したら自分がどうにもならなくなってしまう事がわかっているからなのです。
読んでいる私達は、彼女が決して冷酷な人間ではない、むしろ愛情の深い人なのだと思うのではないでしょうか。

 涙のために前庭にさしこむ明るいひざしが急にくもり、木々の姿がぼやけてきた。スカーレットは、腕に顔をうずめて、泣くまいと努力した。いまさら泣いてもはじまらなかった。涙が役に立つのは好意をよせる男がかたわらにいるときだけだ。

そして、過去をふりかえらず、めそめそと立ち止まらずに進んでいく彼女は、なんてかっこいいのでしょう。

 これからさきの五十年間には、過去をふりかえり、死せる時代、死せる人々を思い、無益な悲しい追憶にふけり、そうした追憶をもつという苦しい誇りから、悲しそうに目を光らせて困窮に耐えてゆく女たちも、南部諸州には、たくさん存在するだろう。だが、スカーレットは、けっして過去をふりかえろうとはしなかった。

女性が働く事を批難された、その時代で、バリバリ働いて成功する彼女は、そういう点では実に頭が良く、(悪知恵も働き) まさに今で言う「勝ち組」ではないかと思います。
そんな彼女を常に影で支えるレット・バトラーが、ほんっっとに素敵です♥

当然、僻み根性もあり、徹底的に嫌われるスカーレットですが、彼女の中に自分と同じものを見ている方がおりました。老フォンティン夫人です。

「あたしはいままで、あんたを好きだと思ったことは一ぺんもありません。あんたはいつも、まるでくるみのように固かった。こどものときも、そうでした。あたしは、自分は別として、きつい女はきらいなんです。しかし、あんたの物事にたいするやりかたは好きです。しかたがないと思ったら、たとえそれが気にくわなくても、じたばたしないところが好きです。まるで、りっぱな狩猟馬のように垣根をとび越してしまう女ですよ」

数少ない理解者の言葉に、おお、同士よ、と喜べばいいのに、スカーレットにはこの言葉が右から左へと消えていってしまうのが、また悲しい所です。(涙)
老フォンティン夫人のセリフをもう1つ。

「--前略--スカーレット、女には、つねになにか恐ろしいものがなくちゃならないんです----なにか愛するものがなくちゃならないのとおなじようにね……」

    

 

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吉乃黄櫻

Author:吉乃黄櫻
ハードロックギタリストで作詞作曲家(まだアマチュアだけどな)吉乃黄櫻の読書ブログ。
60~70年代のロック、サイレント~60年代あたりの映画、フランス・ロシア・ドイツなどの古典文学が好きな懐古趣味人。
西武ライオンズファン。
峰不二子、デボラ・ハリー、ウエンディー・O・ウィリアムスが憧れの人!

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